あまり気づかれていない「DIY利益」という概念
「便利だから」「みんな使っているから」という理由で導入したツールが、いつの間にか毎月数十万円の固定費になっている。みなさん、そんな経験ありませんか??
私が話したいのはその逆側の話です。
それらを一切払わない方法があるという話です。
「DIY利益」とは何か
DIY利益とは、外部に発注・購読すれば発生したはずのコストを、自社内製(DIY)によってゼロにすることで生まれる利益のことです。
これはあくまで私が独自に定義した概念です。調べてみたところ、あまりこのような主張が見当たらなかったので記事にしてみようと思いました。
具体的に説明します。
たとえば社内チャットツール。Slackを22名で使えば月額約3万3千円、年間約40万円かかります。しかし、機能の差は多少あれど、自社のNAS(社内サーバー)にSynology Chatを導入すれば、追加費用はゼロです。
このとき発生する「年間40万円の差額」――これこそがDIY利益です。
売上が増えたわけではありません。でも確実に40万円分、会社の財務構造が良くなっている。これが埋もれた利益の本質です。
なぜ「利益」と呼ぶのか
「単なるコスト削減ではないのか」と思われる方もいるでしょう。私がこれをあえて「利益」と呼ぶのには、明確な理由があります。
コスト削減という言葉は、すでに払っているコストを後から減らすというニュアンスを含みます。しかし、DIY利益は違います。最初から払わないのです。
払う前から存在している利益。見えないだけで、確実に裏側で積み上がっている利益。それこそがDIY利益の本質です。財務会計の損益計算書(P&L)に直接その名は載りません。しかし、経営の力を測る指標として、非常に大切な隠れた数字なのではないでしょうか。
「サブスク回避利益」という複利効果
DIY利益にはもう一つの極めて強力な側面があります。それがサブスク回避利益です。
内製したシステムは、会社を続ける限り毎年莫大なコストがかかることはありません。一方で、SaaSを購読し続ければ、ユーザー数の増加やインフレに伴い、毎年費用が発生し続け、かつ膨らんでいきます。つまりDIY利益は、初期の一回きりの効果ではなく、毎年複利のように積み上がっていくのです。
たとえば、年間500万円分のSaaS・外注費を内製によって回避している会社があったとします。
- 1年後: 500万円の回避利益
- 5年後: 2,500万円の回避利益
- 10年後: 5,000万円の回避利益
事業をただ継続していくだけで、競合他社との間に圧倒的な差が広がっていく。これがDIY利益の複利効果です。競合他社が毎月SaaSの請求書に追われ、支払いを続けている間、内製化する企業は何も払っていません。同じ売上であっても、利益率が構造的に全く異なります。これは経営上の圧倒的な優位性と言えます。
具体的に何をDIY化できるのか
「でも、うちの会社にはエンジニアがいないから無理だ」という声が聞こえてきそうです。しかし、ここが最大の誤解です。
2026年現在、高度な生成AIの登場によって、エンジニアではない人間が自分でシステムを構築できる時代がすでに到来しています。私が実際に自社でDIY化し、生み出した利益のリストの一部を公開します。
| システム・取り組み | 年間回避額(推計) |
|---|---|
| 社内AIチャットボット(Claude API連携) | 900,000円 |
| eラーニング・クイズシステム | 240,000円 |
| 社内チャット(Synology Chat) | 396,000円 |
| GIS顧客管理(Googleマップ) | 300,000円 |
| 自社HP内製運用 | 1,500,000円 |
| SNS運用(Instagram) | 1,200,000円 |
| NAS・クラウドストレージ代替 | 480,000円 |
| YouTube社内研修動画ライブラリ | 156,000円 |
| 監視カメラ年額サービス代替 | 210,000円 |
| 年間合計 | 約5,382,000円 |
数字がどうしても市場推定にはなりますが、これらはすべて、専門のエンジニアを雇うことなく、AIと対話しながら構築したものです。
そしてこの仕組みは、会社を続ける限り毎年538万円が積み上がり続けます。5年後には累計約2,690万円、10年後には約5,380万円。売上が増えたわけでも、誰かを雇ったわけでもない。ただ事業を継続するだけで、他社との差が複利のように広がっていく。これがサブスク回避利益です。
なぜこの概念が広まっていないのか
世の中にある「内製化」をテーマにした記事や書籍を読むと、ほぼすべてが以下のような前提で語られています。
- 「内製化を進めるためには、まず優秀なエンジニアの採用が必要である」
- 「外部のコンサルティングパートナーと連携して内製化体制を構築しよう」
- 「SaaS費用を削減するために、まずは社内ツールの見直し(リプレイス)を行おう」
つまり、世間の議論は「新しく人を雇うか」「別の外注やツールに切り替えるか」という二者択一の発想しかありません。「AIを駆使して自分でゼロから作る」という選択肢が、既存のビジネス構造のバイアスによって、存在していないようにも見えます。
加えて、こうした内製によって「本来支払うはずだったが回避した費用」を利益として定義・算定・可視化するという管理会計的な概念を探してみたのですが、あまり見当たりませんでした。だからこそ、実際に内製化で大きな得をしている会社があっても、それを上手く言語化、評価制度に落とし込むことができていないのではないかと考えました。
この「埋もれたままの利益」が、日本中の中小企業に数多く眠っていると私は感じています。
DIY利益を可視化することの意味
DIY利益をきちんと算定し、文書化して可視化することには、経営上の極めて実用的な価値があります。
① 認定・表彰の根拠資料になる
経済産業省が推進する「DX認定」や「DXセレクション」の選定プロセスでは、「デジタルサービス全体の導入・運用利益」や効率性の指標が厳しく求められます。DIY利益の算定書は、自社が主体的にデジタル化を成し遂げているという直接的な証拠(エビデンス)になります。
② 金融機関・取引先への強力な説明材料になる
外注費や固定費を極限までゼロに抑えながら、他社と同等以上の強固なシステムを自社保有している事実は、経営効率の高さと財務の健全性を示すこれ以上ない強力な指標となります。
③ 採用ブランディングへの活用
「当社はエンジニアを抱えずに、AI活用だけでこれだけのシステム基盤を自社運用している」という事実は、先進的な企業文化の証明となり、優秀な求職者に対して強烈なインパクトと魅力を与えます。
④ 会社の正しい自己評価
現場でこれだけデジタル化を頑張ってきたのに、「目に見える売上がすぐに倍増しないから成果が出ていない」と感じてしまう経営者は少なくありません。しかし、DIY利益として可視化することで、これまで見えていなかった努力の成果が、確固たる数字として証明されます。また、「外注費をこれだけ浮かせた」という実績をDIY利益として算定できたとき、開発に貢献した社員へ賞与や評価として正当に還元する評価基準が作れるようになると思います。
まとめ:DIY利益という視点で自社を見直してほしい
みなさんの会社が、これまで「当たり前のこと」「自分たちが手を動かせばタダだから」としてやってきた業務の中に、実は莫大な利益が眠っています。
自分でホームページを更新している。自分で帳票や自動化ツールを作っている。自分でSNSを運用している。自分で動画を撮影して共有している。
それは単なる泥臭い「コスト削減」ではありません。企業の強固な財政基盤を作る「利益の創出」そのものです。
そしてそれを内製で維持し続ける限り、その利益は毎年複利のように積み上がり続けます。ぜひ一度、自社の「DIY利益」を真剣に計算してみてください。あなたが当初思っているよりも、はるかに大きな、会社を支える数字が現れるはずです。

