DIY利益という経営の視点
——シリーズのまとめと、内製化の本質について
シリーズの振り返り
このシリーズでは、「DIY利益」という概念を3つの種類に整理して解説してきました。
外部に発注・購読すれば発生したはずのコストを、自社内製によってゼロにすることで生まれる利益。「コスト削減」とは異なり、最初から払わないことで生まれる利益です。Type A(初期開発費)・Type B(サブスク回避)・Type C(現場技能)の3種類があります。
2013年から2026年にかけての22取り組みを市場相場と照らし合わせて算定。ITシステム開発・データ移行・認定申請・労務整備のすべてを外注費ゼロで対応しました。
回避できた外注費の合計:約2,607万円
内製したシステムは毎年のSaaS・運用代行費用を発生させません。この効果は事業を続けるほど複利的に積み上がります。
年間回避額:約554万円 Type Aと合算した10年後の累計:約8,100万円
ドライブレコーダーの取り付け・床の補強・塗装・鉄骨設置——社員が個人の技能で対応した作業にも外注相場に基づく経済的価値があります。その価値を可視化し、手当として還元する考え方を紹介しました。
「技能の価値を数字にして社員に返す」という経営の考え方
「この規模の会社には不要では」「オーバースペックでは」という問いについて
このシリーズを通じて、一つの問いに向き合う必要があります。「小さい会社にそこまでのシステムは必要ない」という考え方です。
これは、否定すべき意見ではありません。むしろ、経営判断として「何をやり、何をやらないか」を選ぶことは重要です。システムの導入にはコストと手間がかかる場合があり、規模に合わない投資をすることは確かに問題です。
ただし、その判断をするうえで確認しておきたい事実が一つあります。
このシリーズで紹介した22の取り組みは、外部への発注費用がゼロです。市場相場との比較で約2,607万円分の価値を持つ取り組みですが、実際に支出した外注費は0円でした。年間の実費はサーバー・ドメイン代約18,000円とAIツール利用料(Claude Pro・Gemini Google AI Pro)約72,000円の合計約90,000円のみです。年間約554万円の回避額に対する実費比率は約1.6%です。
「必要以上のコストをかけること」がオーバースペックの定義だとすれば、コストをかけていない取り組みをその言葉で評価することは、論理的に難しくなります。
評価の基準が「コスト」でないとすれば、おそらく「規模に見合っているか」という感覚的な判断になります。では、規模に見合った取り組みとはどこで線を引くのでしょうか。
業務の負荷は、会社の規模では決まらない
内製化の必要性を考えるとき、「会社の規模」よりも「業務の性質」の方が適切な判断基準ではないかと思っています。
たとえば117項目×1,050件の点検記録を行政に提出する業務は、従業員数に関係なく117×1,050件のデータを扱う必要があります。これを手作業で行うか、システムで効率化するかは、「会社が大きいか小さいか」ではなく、「その作業をどれだけの人が・どれだけの時間をかけて行うか」という問題です。
規模が小さい会社ほど、一人ひとりの社員が担う業務の幅は広い傾向があります。大企業であれば専任の担当者がいる作業も、中小企業では現場社員が兼務することが多い。その状態で業務量だけが増えれば、しわ寄せは必ず社員に向かいます。
内製化による効率化は、単なるコスト削減ではありません。残業が減り、社員の時間が戻ります。繰り返しの転記作業や手作業の負担が減れば、社員の疲弊も減ります。職場への満足度が上がれば、定着率にも影響します。採用が難しい地方の中小企業にとって、社員が長く働き続けてくれることは、数字に換算しにくいが確実に大きな価値です。
会社自ら手を動かしてシステムを作り、それを社員に渡すという方法は、一般的ではないかもしれません。多くの場合、業務効率化は「やっておけ」という指示で現場に丸投げされるか、高額なシステム導入の稟議が通るまで棚上げされるかのどちらかです。
しかし考えてみると、社員の残業を減らすために会社が時間を使うことは、経営の本質的な役割の一つではないでしょうか。コストをかけずに、社員の負担を実際に軽減できるなら、その取り組みは規模に関係なく意味があります。
DIY利益という視点を自社に置き換えると
このシリーズは弊社の事例をもとに書いていますが、伝えたいのは「自社の取り組みを紹介する」ことではありません。
同じような取り組みをしている経営者は、全国に数多くいます。ホームページを自分で更新している。帳票をExcelで自作している。社員が設備の修繕をしてくれている。SNSを自分で運用している。
こうした「当たり前のこと」にも、外注相場に基づく経済的価値があります。それを「利益」として定義・算定・可視化することで、見えていなかった会社の強みが数字になります。
| よくある「当たり前」の取り組み | DIY利益として考えると |
|---|---|
| ホームページを自分で更新している | Web制作会社への月額保守代行費(月5〜10万円相場)を回避している |
| Excelで集計・帳票を自作している | システム開発会社への発注費(数十万円相場)を回避している |
| 社員が設備の修繕・取り付けをしてくれる | 業者への工事費(数万〜数十万円相場)を回避している |
| SNSを自分で運用している | SNS運用代行費(月10万円〜相場)を回避している |
| 就業規則・規程を自分で整備した | 社労士への依頼費(数十万円相場)を回避している |
積み上げてみると、数百万・数千万円規模の経済的価値になることがあります。それが見えていないのは、価値がないからではなく、可視化していないからです。
まとめ:DIY利益という視点が変えること
DIY利益という視点を持つことで、3つのことが変わります。
一つ目は、自己評価です。売上がすぐに変わらなくても、自分が積み上げてきた取り組みの経済的価値が数字になります。「成果が出ていない」という感覚が、「見えていなかっただけだった」という気づきになることがあります。
二つ目は、社員への評価です。現場技能でコストを節約してくれた社員の貢献が、外注相場という客観的な基準で可視化されます。その価値を数字として還元する仕組みを作ることができます。
三つ目は、取り組みの説明力です。自社がやってきたことを「感覚」ではなく「数字」で語れるようになります。DX認定・金融機関・採用活動など、さまざまな場面で根拠のある説明ができるようになります。
ぜひ一度、自社のDIY利益を計算してみてください。Type A・B・Cのどれか一つからでも始められます。これまで見えていなかった会社の強みが数字になるはずです。
※ 本記事における数値(外注費約2,607万円・年間554万円等)の算定根拠は、各取り組み別DIY利益算定レポート(全22件)に詳細を記載しています。
※ 各SaaS・外注相場は2025〜2026年の市場データを参照した推計値です。実際の相場は発注先・仕様・時期によって異なります。
※ システム構築・書類作成にはClaude Pro(Anthropic社・月額約3,100円)およびGemini Google AI Pro(Google社・月額2,900円)を活用しました。自社の年間実費はサーバー・ドメイン代約18,000円+AIツール利用料約72,000円=合計約90,000円です。外注費(専門家・ベンダーへの発注)とは区別して計上しています。

