会社経営において、あまり気付かれていない「DIY利益」という概念
DIY利益シリーズ ① 概念編

会社経営において、あまり気付かれていない
「DIY利益」という概念

払わないことで生まれる利益——その定義と3つの種類
毎月、SaaSの請求書が届く。チャットツール、顧客管理、eラーニング、SNS運用代行、ホームページ保守……。
「便利だから」「みんな使っているから」という理由で導入したツールが、いつの間にか会社の財務を圧迫する毎月数十万円の固定費になっている。経営に携わるみなさん、そんな経験はありませんか?

私が話したいのは、そのコストを「後から削減する」話ではありません。

最初から払わない会社が存在するという話です。そしてその会社は、払わないことで毎年、確実に利益を積み上げています。

さらに言えば、これはIT・デジタルの話だけではありません。現場で働く社員の技能にも、同じ構造の利益が眠っています。


「DIY利益」とは何か

DIY利益とは、外部に発注・購読すれば発生したはずのコストを、自社内製(DIY)によってゼロにすることで生まれる利益のことです。

これはあくまで私が定義した概念です。調べてみたところ、あまりこのような主張が見当たらなかったので記事にしてみようと思いました。

具体的な例で説明します。

社内チャットツールとしてSlackを22名で使えば、月額約3万3千円、年間約40万円かかります。しかし自社のNAS(社内サーバー)にSynology Chatを構築すれば、追加費用はゼロです。

このとき発生する「年間40万円の差額」——これこそがDIY利益です。

売上が増えたわけではない。でも確実に40万円分、会社の財務構造が良くなっている。

なぜ「コスト削減」ではなく「利益」なのか

「それはコスト削減の話では?」と思う方もいるでしょう。私がこれをあえて「利益」と呼ぶのには、明確な理由があります。

コスト削減とは、すでに払っているコストを後から減らす行為です。一方でDIY利益は違います。最初から払わないのです。

払う前から存在している利益。見えないだけで、確実に積み上がっている利益。財務会計の損益計算書(P&L)にはその名は載りません。しかし、経営の力を測る指標として、非常に大切な隠れた数字なのではないでしょうか。

DIY利益には3つの種類がある

重要なのは、DIY利益が3つの性質をもつことです。それぞれ異なる経営上の価値があります。

TYPE A 一回限り
初期開発費の節約

外部のITベンダー・士業・コンサルに発注すれば発生するはずだった「初期費用」を、自分でゼロにすること。システム開発・申請書類・規程整備など、発注すれば数十万〜数百万円かかる作業をすべて内製した。

→ 記事②で詳しく解説
TYPE B 毎年複利
サブスク回避利益

市販SaaSや外注業者に払い続けるはずだった「月額・年額費用」を、内製によってゼロにし続けること。会社を続ける限り毎年積み上がる、複利型の経営優位性。

→ 記事③で詳しく解説
TYPE C 現場技能
現場技能DIY利益

社員が個人の技能で、外注すれば費用が発生する作業(設備設置・塗装・修理等)を社内対応すること。その節約分を可視化し、手当として社員に還元する仕組み。IT・デジタルに限らないDIY利益の形。

→ 記事④で詳しく解説

Type Aは「一発の節約」、Type Bは事業を続けるほど差が広がる複利効果、そしてType Cは現場で働く社員の技能を経営上の価値として可視化する仕組みです。3つを合算したとき、中小企業でも数千万円規模のDIY利益が積み上がることがあります。

なぜこの概念が広まっていないのか

世の中の「内製化」に関する記事は、ほぼすべてこういう前提で書かれています。

  • 「内製化にはエンジニアの採用が必要」
  • 「外部パートナーと連携して内製化を進めよう」
  • 「SaaS費用を削減するためにツールを見直そう」

つまり議論は常に「人を雇うか」「別の外注に切り替えるか」の二択です。「AIと自分でゼロから作る」という選択肢が最初から存在していない。

さらに、現場社員が個人の技能で会社に貢献している部分は、これまで「当たり前のこと」として見過ごされてきました。それを外注相場と照らし合わせて価値を算定し、社員に還元するという発想も、あまり見当たりません。

回避したコストを「利益として定義・算定・可視化する」という発想が、そもそも日本の中小企業経営の中に存在していないのだと思います。この「埋もれたままの利益」が、日本中の中小企業に眠っています。

DIY利益を可視化することの4つの意味

  • ① 認定・表彰の根拠資料になる 経済産業省のDX認定・DXセレクションでは「デジタルサービス全体の利益」が指標として求められます。DIY利益の算定書は、その直接的な証拠になります。
  • ② 金融機関・取引先への説明材料になる 固定費をゼロに抑えながら同等のシステムを保有している事実は、経営効率の高さと財務健全性を示す強力な指標です。
  • ③ 採用ブランディングになる 「エンジニアなしでこれだけのシステムを自社運用している」「現場技能を正当に評価して手当を出している」という事実は、先進的な企業文化の証明となり、求職者に強いインパクトを与えます。
  • ④ 経営者・社員の正しい自己評価になる 売上がすぐに変わらなくても、DIY利益として可視化することで「見えていなかった成果」が確固たる数字になります。特にType Cは、現場社員が自分の技能を会社から正式に評価されるという体験につながります。

まとめ

DIY利益とは、払わないことで生まれる利益です。一回限りの「初期開発費の節約(Type A)」、毎年複利で積み上がる「サブスク回避利益(Type B)」、そして現場社員の技能を可視化・還元する「現場技能DIY利益(Type C)」の3種類があります。

2026年現在、生成AIの登場によって、エンジニアでないビジネスパーソンが自分でシステムを作れる時代になりました。Type AとType Bはその恩恵を受けられる時代です。そしてType Cは、テクノロジーとは無関係に、どんな業種・規模の会社にも存在している利益です。

次の記事では、具体的な数字とともに各利益の中身を解説します。